Booklog:『たとえば君』
2011年8月 1日 13:50 - cityside - streetcorner (books)
『たとえば君』(文芸春秋)
著:河野裕子、永田和宏
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本書はもの凄い本だから、覚悟して読んでいただきたい。これまで僕が読んだなかで最も偉大な恋愛小説は、小島信夫の『菅野満子の手紙』(集英社)だと勝手に思っているけれど、本書はまったく別のあり方でそれに匹敵している。1年前に亡くなった歌人の河野裕子さんとは、生前に1度だけお会いしたが、たった1度の印象がこれほどまでに焼き付いて離れない人は、河野さんをおいて他にはいない。あれは、今から10数年前、僕が大学2年のときだったか。ある短歌賞の受賞者と選者という立場で、2日間、延岡でご一緒させていただいたのだ。当時、ライトヴァースに傾倒していた僕にとって日常を詠む河野裕子は憧れの歌人というわけではなかったけれど、彼女に接してすぐに、「この人はごまかせない」と直感した。あまりにも地に足がついていて、あまりにも力みのない自然なかたちで少女の無邪気さと家庭を持つ大人の女性の鋭さを同居させている姿に、20歳の僕は空恐ろしさを感じた。今から思えばとてもではないが短歌と呼べるような代物ではなかった僕の稚拙な歌にも、「意外と古風なのね。もっと自由にやればいいのに」とおっしゃり、後日、わざわざ、自身の結社の入会案内と結社誌『塔』を送ってくださった。短歌のことではない。もちろん、人として見透かされていたのだ。先日、そのことを実家の母に話したところ、当時の僕は「京都に遊びにいらっしゃいよ」と言われたとも言っていたそうで、あるいはそうだったかもしれない。訃報に触れたのは、昨年の8月、尾道に滞在しているときだった。結局、その後、僕が本格的に作歌に取り組むことはなかったのだけれど、なぜだろう、たった1度の河野裕子との出会いは、今でも僕の存在の芯に近いところにありつづけていて、それはとても幸福なことで、なんとまあ、不思議な人だった。
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H.


