バラとショコラ
2009年2月24日 09:07 - cityside (dish)
先日、レストラン「she-Bop terrace」で「第1回カルチャー&ディナーサロン」を開催しました。「カルチャー&ディナーサロン」は、ゲストの食に関するお話と、そのテーマに合わせてつくる一夜限りのディナーコースをお楽しみ頂こうという、「場」の創出を目指す「she-Bop terrace」にぴったりの企画で、スタッフも楽しみな取り組みです。その初回。ゲストは景観デザイナーの槇島みどりさん、テーマはヴァレンタインズデーが間近だったので「バラとショコラ」にしました。
景観デザイナーで、ハーブ、スパイス、アロマの専門家でもある槇島みどりさんは、僕の恩人でもあります。
僕が現在のように都市や建物を生業にするようになったばかりの頃、分譲マンションの仕事でご一緒したのが最初でした。僕はディベロッパーの担当者、彼女はランドスケープデザイナーとして、というわけです。当時の僕は、大学のカルチャーが染み付いた現場をしらない頭でっかちで、都市や建物がつくられる上で優先される価値観やプロセスに大きな違和感を感じていましたが、それを立場の異なる人々に適切なかたちで表現したり修正したりするには経験が足りず、手掛かりさえ掴めずにいました。実際に建物がつくられるプロセスは、建築史や建築的思考、都市全体への眼差し、進歩的な都市生活者の視点とは全く別の世界です。そんな世界で、建築の実践的な教育を受けたことがないばかりか、西洋思想史という実学とは掛け離れたことをやってきた僕の言葉が通じるはずもなく、そうした経済合理性とは直接結び付かない精神性が役に立たない独り言のようなものに思えてきて、突っ張ってはいましたが、少し自信を失いかけていました。槇島さんと出逢ったのはそんなときで、開口一番「大学時代は何をなさっていたの?」と訊く彼女に、半ば自嘲気味にそんなことを話したのを覚えています。しかし、それを聞いた彼女の反応は、予想とは全く違うものでした。彼女には、こう言われたのです。「あなた、役に立たないって素晴らしいことじゃありませんか。それは、総ての役に立つということですよ」。それは、都市や建物をつくるオフィスに入って半年、はじめて「言葉」が通じたと思えた瞬間でした。
その後、敬愛するさまざまな人々との出会いがあり、僕もそれなりに経験を重ね、当時は懐疑的に感じていたことのなかにも確かな芳醇さと役割りがあることも知り、当時のように切迫した失望感を感じることは今は少なくなりましたが、あの時の槇島さんの一言で救われた僕の思いは、より一層、大切なものになっています。
そうそう、「第1回カルチャー&ディナーサロン」があった週も、僕はいろいろな出来事があり、精神的に随分とくたびれていました。クタクタになりながらレストランに辿り着いた僕が駆け付け一杯で飲まされたのが、バラの花びらを入れたスパークリングワイン。すっきりとしたバラの香りと程よいアルコールが、僕をみるみるうちにリラックスさせてくれました。バラの香りには、落ち込んだ気分を晴れやかにする効能があります。
H.




