浮遊する色彩
2008年12月 5日 09:30 - creationside (design)
もう少し先方が長く生きていたら、あるいは僕が早く生まれていたら会っていただろう、その人となりや仕事ぶりに直接触れてみたかった、と思う故人が何人かいるが、その一人がインテリアデザイナーの倉俣史朗さんだ。
ミラノ・サローネで作品が復刻されたり、西麻布にギャラリーがオープンしたり、『pen』で特集されたりと、2008年は倉俣さんが再発見された年だったのだけれど、その最後に、イッセイ・ミヤケから倉俣さんデザインのボトルによる「ロードゥイッセイ・クラマタエディション」が世界限定2500個で10月に発売された。1990年、三宅一生さんは、ブランド初の香水となる「ロードゥイッセイ」のボトルデザインを倉俣さんに依頼した。そしてその当時は技術的に不可能だったデザイン案が、18年の歳月を経てこの度実現したというわけなのだ。レーザーで内部を球形に削られたガラスの立方体に、メタルブルーの円錐が垂直に上から刺さっている形。パッケージには、倉俣さんが発案した「スターピー」というリサイクルガラスを混ぜ込んだ人工大理石の模様が使われている。三宅一生さんはこんなふうに書いている。「倉俣史朗は香水が好きだった。香水には実体がない。それがいいと言う。ある日、彼に香水ボトルのデザインを依頼した。出てきたものは、水滴を大きくした形。地球を凝縮した形。そのなかで、花と夢、光と風、男と女、がロンドを踊っていた。」
10月に忙しかった僕が南青山のショップを訪れた時には「クラマタエディション」はすでに売り切れていて、1週間もしないうちに完売したとのことだったが、それから2週間ほどして電話が掛かってきて「2、3個だけ海外から取り寄せることになったのでよかったら如何でしょうか」と言う。こうしたわけで、シリアルナンバー224の「クラマタエディション」は、現在僕の手もとにある。
「ミス・ブランチ」「ラピュタ」「アクリルのスツール」等の倉俣さんの作品から、僕はポール・セザンヌの「色彩はわれわれの頭脳と宇宙とか相逢う場所だ」という言葉を思い出す。サント・ヴィクトワールにかかる重力そのものといっていいセザンヌの色と、重力から解き放たれて夢のように浮かぶ倉俣さんの色は言わば対局にあるが、「強さ」も「儚さ」も、「隆起する力」も「浮遊する自由」も、そのどちらもが特別な才能だけが掬いとれる宇宙なのだ。と言ったら、問題をうやむやにしていることになるだろうか。

H.



