矢口小学校 ワークショップ
2008年3月10日 09:50 - cityside - creationside (art)
取引企業が不渡りを出してオフィスも僕の頭の中もごった返していたその日の午後、僕らは大田区立矢口小学校にいた。矢口小学校の先生から「6年生の卒業制作を矢口渡駅に置きたいのだが、鉄道会社に取り次いで貰えないだろうか」との電話があったのは昨年の12月のことだった。その時僕は「小学生の作品をそのまま公共空間に設置することには賛成出来ない。アーティストによるワークショップを通して出来た作品ということでよければ、喜んで引き受けたい」と返答した。そして、このワークショップが実現した。小学生を前にした大人が「君たちに会うのをとても楽しみにしていました」などと言うシーンをテレビでよく見掛けるが、あれは嘘や例えや社交辞令ではないのだ。
給食のメニューは、フレンチトースト、シチュー、ミルク、みかん。美味かった。この小学校にはチャイムがなく、従って給食もなんとなく始まる。教室の後ろに鍋が置かれて、後はセルフサービスの要領で思い思いによそって食べているようだった。
ワークショップの講師は、前年に矢口渡駅のペインティングをお頼みした経緯もあって、京都造形大学准教授の神谷徹さんにお願いし、快く引き受けて下さった。神谷さんは先ず、美術室の前の廊下で、混色しても濁らず互いに引き立て合う5色のアクリル塗料をつくった。グリーン系、イエロー系、オレンジ系、レッド系、パープル系、そしてホワイト。通りかかった子どもたちが「わぁ〜キレイ」とか「俺、この色好き」とか言うのを聞いては、僕はワクワクしていた。
体育館に集まった6年生85人に渡した課題は、指定の5色から2色を選んで30センチ四方の正方形の画用紙を塗り分けるというものだった。テーマは「未来への光」(ちょっと難しい)。2色の中での混色は自由だが仕上がりとしては2色でなければならず、ドゥローイングも禁止だ。考えてみれば、小学校の美術の授業はドゥローイングばかりで、ペインティングをした記憶がない。
作業時間はレクチャーと片付けを含めて、約2時間。大人は集団になると作業が早いが子どもはその逆で、作業の難易度としては個々人は物足りなかっただろうが、全体としてはこれぐらいが限界だった。出来上がった30センチ四方の正方形は、色彩はもちろん刷毛目から個々人の特徴(性格や気質のようなもの)がはっきりと伺えて興味深かった。また、自分の作品をわざとぞんざいに扱ったり、ルールにやたら厳格だったりと、忘れていた11、2歳のカルチャーを実感した。ローティーンの僕は、今よりもずっと窮屈な思いで毎日を過ごしていた。
1枚だけでは想像もつかないほどに美しい春色のラインが、体育館の端から端へと架けられた。ここで大体の並びを決め、番号を付し、デジタルカメラで撮影して、ラップトップに取り込んだ。後日、そのデータに神谷さんが更なるエディットを加え、最終的には縦20センチ横17メートルの大作として5月の連休前後に東急多摩川線矢口渡駅の外壁に設置する予定なのだ。
アートは、絵が上手な人の為だけにある方法ではない。美術の成績が2だったとしても、人生にはちゃんとアートという奥の手はあるのだ。例えば2色に塗り分けただけの正方形も、ディレクションとエディット次第では見違える程に格好良くなる。ちょっとしたコツと自分以外のものを尊重する気持ちがあれば、自分一人の力では届かない所に行けることがある。中学生になった彼らが矢口渡駅を訪れた時に無自覚にでもそんなことを体感してくれたなら嬉しいが、その頃には彼らも立派なティーンエイジャーというわけだ。
区立の小学校という意義深いだけに制約の多い場所で、それを乗り越えようという意志を持って下さった内外の関係者に感謝します。















